最適なCRM(Customer Relationship Management)をご提案します。

雑誌連載  [ 1.限界と必然 ]

●はじめに

簡単に自己紹介をさせていただくと、私は約7年間営業部門の情報化の仕事に携わった。その後独立して現在の会社を設立した。会社設立の動機は、営業部門が本当に情報化で効果をあげるためには、1ベンダーでは対応できない様々な営業課題やニーズを目にしたからである。もっと言ってしまうと自社のプロダクトを起点とした提案だけでは本当の意味での問題解決にならないと感じたからである。あくまでも顧客ニーズを起点にした問題解決を推進したい。そんな思いから情報化だけではなく営業全般を支援する会社を設立した。本稿では、実際に営業部門の情報化を構築した経験から、「本当の意味で役に立つ営業部門の情報化とは何か?」というテーマで、営業部門の責任者が考えていること、また営業部門の情報化の現状と最適化手法、さらにはその情報化がもたらす功罪について6回に渡り原稿を書かせていただく。本連載が読者の方々に少しでもお役に立てれば幸いである。

●限界と必然

誰もが現状に限界を感じている。変わらなければならない。変わらないほうがリスクが高い。しかし変われない。また、単に変わればいいというものではない。ビジネスである以上変わるためには明確な要件と実行可能性が求められる。
現状の限界については今さらここで語る必要はないだろう。一言で言えば、顧客・取引先の要求するニーズが高度になったということに尽きる。一通り商品説明をすれば売れる時代はとうに終焉し、個客ごとのニーズに対応していかなければビジネスを勝ち取ることはできない。そんな高度な営業(顧客対応)が求められている。これは、なにも今に始まったことではなく昔からそうであった。ただ、昔であればそのスキルを身につけるために充分な時間があった。先輩の背中から学べばよかった。それが今の時代は学び終わったときはすでに陳腐化してしまっているなど、なによりスピードが求められる。このスピードは情報化によりさらに加速され、現に90年代の米国は、活発な情報関連投資が一因となって、企業活力の再生、ホワイトカラーに厳しい雇用情勢など、勝ち負けの2極化社会の幕を開けた。

●営業が制約条件に

誤解を恐れずに書けば二極化を決める要因は制約条件である。制約条件とは生産管理の手法で用いられる用語であるが、簡単な例でたとえると、必ず部長の決裁が必要であり、その部長がもし部下を100人抱えていたとしたらどうであろうか?部長の決裁が降りるまで部下の仕事は止まり、部長の能力次第で全体の成果(100人の部下の成果)が決まってしまう。これを部長がボトルネックになっている、制約になっていると言う。 これを企業競争力の観点から見た場合に「営業」が制約になっており、営業次第で企業全体の成果が決まる。それは営業を通さない限り売上があがらないからであり、必ずすべての売上は営業を通るからである。つまり、営業の通り具合が悪ければそれはそのまま企業の成果を低下させ、逆に、その営業の通り具合を良くすることで、企業全体の成果は飛躍的に向上する。
これは何も営業がダメだから改善しろと言っているのではない。逆に営業はあらゆる役割を担い他部門に比べもっとも忙しい部門である。その忙しさを少しでも緩和することにより、企業全体から見れば大きな成果が得られるという話である。ただ、この制約条件の本質は忙しさの緩和というレベルではなくこれからの企業の運命は営業が決めるということにある。それは、営業は他のどの部門よりも顧客に一番近い存在であり、顧客のことを一番している部門だからである。つまり、営業を変えるということは顧客対応を変えることであり、それは企業全体を変えるに他ならない。顧客を起点にビジネスを組み立てる中心に営業が位置し重要な役割を担う。これが営業部門の情報化を推進する本質である。

●会社の規模は関係なく悩みは同じ

少しここで具体的な話に戻すと、私が実際に営業部門の情報化に関わった仕事は、社員10名の会社から営業だけで5000名という会社まで多岐に渡る。導入プロセスこそ違うもののそこで1つ共通していたことがある。それは、情報化に求めているものは「近道」「定着化」ということである。
近道とは、3年掛かっていたものを1年で遂行することであり、定着化とは、それを息切れすることなく継続して行っていくことである。たとえば、従来は営業研修というのが当たり前のように行われていた。研修後は人が変わったように行動するなど一定の効果を得ることも出来た。ただ、それは一過性に陥りやすく3ヶ月も経てばまた元に戻ってしまう。その繰り返しである。また、今は入社3年以内の離職率が40%に足している。(厚生労働省調べ)。折角育った社員も辞めてしまえば元も子もない。
これらの課題の解決策を「近道」「定着化」に置き、それを情報化で実践しようという考え方である。具体的には日々の業務の中に情報化を組み込んでしまうことで否応なしに使わざるおえない環境を作ってしまうことであるが、これには当然営業の反発が起こる。この功罪については、次稿以降で詳細について触れていく。

●営業部門が情報化に求める機能

では、どんなことを情報化の上で行おうとしているのか、その具体的な機能について話を進めていく。ここで持ち出されるのがSFAといわれている営業部門の情報化を担うアプリケーションであり、実に様々なアプリケーションが存在する。各社のアプリケーションにはそれぞれの営業力アップのノウハウが組み込まれ、自社の営業にあったアプリケーションを選択することになる。
ただ、販売事務や経理業務とは異なり営業は標準化すればいいというものではない。逆に標準化することにより今までの「よい面」「自社らしさ」「自分らしさ」が消えてしまい営業力を低減させることにもなりかねない。ここが営業部門の情報化を進めるにあたって最も重要な鍵になり、営業部門の情報化にどんな機能を求めるか違ってくる。

●重要な鍵とは何か

経験上、その重要な鍵とは、大きく3つに分類される。1つは、自社が置かれているポジションである。つまり、リーダーたる企業なのか、チャレンジャーなのか、それとも、フォロワー、ニッチャーなのかである。もう1つは扱っている商材からくる営業スタイルの違いである。すなわち、扱っている商材の単価は高いのか低いのか、また1件受注するまでの商談期間は長いのか短いのかなどである。さらにそこに市場のライフサイクルが絡んでくる。概ねこの3つの鍵を解くと自社にとって最適な営業部門の情報化が見えてくる。
それぞれの詳細については次稿以降に回すとして、簡単な例をひとつだけ見ておこう。それは情報化が必要ないケースである。たとえば、携帯電話が出始めたころを思い出して欲しい。誰もが携帯を欲しがった。極端に言えば営業しなくてもドンドン売れた。携帯販売代理店はとにかく店舗を増やす。店舗を増やせば増やすだけ利益が出た。商談らしいものもなくものの10分程度で売れていく。そこには営業スキル云々の問題もない。誰でもいいから人材を確保することがビジネスを成功させる鍵だった。これはもっとも極端な例ではあるが、「その企業が置かれている状況に応じて求めるものは全く違ってくる」ということを改めて考えて欲しいための例である。大体各社似たようなもので始めてしまうと、分度器のように最初の1%の違いは目に見えないものでも、ゆくゆくは大きな違いとなってあらわれている。

●効果を上げるための4つの運用デザイン

さて、この原稿では、もうひとつ運用というテーマについても言及していきたい。それは人に替わってコンピュータが営業を行ってくれるわけではないからである。あくまでも営業は人と人が行う行為であり、人にしか出来ないことがたくさんある。これを踏まえて情報化がどうあるべきか考えることが必要であり、そこには4つのデザインを考える必要がある。
(1)M(Management)のデザイン
「マネジメントの頂点にいる経営者にとっての情報化の意義とは何か?」という言葉に置き換えてもいい。また経営者を営業担当役員や営業責任者の言葉に置き換えてもいい。情報化によって得られるゴールをどこにおくか、またその効果を得るために発生する阻害要因は何かを明確にしておく必要がある。
(2)I(Information)のデザイン
一言で言えば、「情報は資産となりえるか?」ということである。どんな情報なら資産になり、その情報が将来利益を生むかということである。よく聞くのがお客様や取引先担当者の趣味を情報化するケースである。果たしてそれが本当に利益につながるかということである。
(3)T(Technology)のデザイン
テクノロジーがもたらすものは、蓄積、検索、抽出、情報の加工、情報の共有、伝達スピードである。逆にこれ以外にテクノロジーがもたらすものはない。よく情報の共有が目的であるということを聞くが、これはテクノロジーさえ導入すればなんなく実現できる。重要なのは「どんな情報を、誰と共有するか」である。
(4)H(Human)のデザイン
スペックや開発工数など情報システムを中心に設計してはいけない、あくまでも人や仕事を中心に設計する。また、そのシステムを使う動機(モチベーション)まで含めて設計する必要がある。これは、導入後よく起こる「効果が実感できない」「負担が増しただけ」などを解決することにつながる。

●IT投資とIT経費を分けて考える

最後にITを投資という観点から少しの述べておく。営業部門の情報化投資は「コスト削減のための情報化投資」と「企業競争力アップ・収益力アップのための情報化投資」の2つが存在する。たとえば、電子メールは名刺や電話と同じように営業するからには必要不可欠な道具であり、これはIT投資ではなくIT経費である。
本稿では詳しくは触れないがCTI(情報化された電話オペレーションセンターのこと)を例にすると、CTIを導入すると、今まで50本しか取れなかった電話が80本、100本と取れるようになる。これは情報化がもたらした投資効果である。単純に考えれば生産性が1.5倍向上すればその分だけ人を減らすことが出来る。これはコスト削減志向の情報化である。同じCTIでも電話オペレーションセンターに蓄積された「顧客の生の声」を次の営業施策や商品施策などに積極的に活用するのであれば、それは企業競争力アップのための情報化投資になる。
本来、営業部門の情報化はコスト削減志向ではなく、企業競争力・収益力アップ志向でなければ意味がない。そのための挑戦であると言ってもよい。営業は常に挑戦であり、情報化しただけで収益力がアップすれば誰も苦労しないからである。

●最後に

本稿第1回目はあえて総論的な話に終始した。次稿以降では、現場で起こっていることをノンフィクションでお伝えしていく予定である。なお本連載で取り上げ欲しいテーマなどございましたら、筆者もしくは編集部宛にご連絡いただければなるべく本連載上で取り上げいく所存である。



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