最適なCRM(Customer Relationship Management)をご提案します。

雑誌連載  [ 4.営業支援システム導入目的の多様化と経営判断 ]

●はじめに

まず一般論で述べれば営業マネジメントは依然として行動管理に焦点が当てられており、その流れを受けて営業支援システムも営業マンの行動管理に焦点が当てられているものが多い。しかしながら営業マンの行動管理を厳密にするような内向きのシステムの強要は、かえって現場の反発を招いてしまい徐々に利用しなくなるなど定着させることが難しい。すでにそれは米国と日本の営業の違いが原因であると言われている。一言で米国の営業を言ってしまえばマニュアル化、自分の仕事以外はしない契約化であるのに対して、日本の営業は個々の営業マンが高い柔軟性と付加価値を有しており、幅広い役割を担い顧客対応を実践し営業成果につなげている。つまり型にはまった営業、そもそものSFAの略語の意味である「営業のオートメーション化を前提にした営業支援システム」は日本で定着しないという話である。そんな中で、営業マンの行動管理ではなく、顧客対応力を強化することに焦点をおいて開発され営業支援システムも存在する。営業を起点として全社員が顧客対応力を強化するための外向きのシステムであり、企業競争力の向上を目的とした営業支援システムというより全社的な顧客対応力アップシステムである。

●組織風土の違いと営業支援システムの関係

日米の営業文化の違いもさることながら第二の壁もある。たとえば、新人が多い組織とベテランが多い組織では、全く異なる営業支援システムが求められる。さらに言うと、同じ新人でも何も分からない学卒が多い場合と転職組が多い場合でもまた違うシステムが求められる。また、軍隊に代表されるように指揮命令系統が明確で統率を重視するピラミット型の組織形態と個性溢れるクリエイティブな仕事を担うことを目的としたフラット型の組織形態でも全く違うシステムが求められる。通常、企業内にはあらゆる人材が存在し、1つのシステムではすべての要求を満たすことはできない。

●営業支援システムの究極の導入目的は「売上アップ」

どの営業マンの、どの取引先の売上アップを狙うのか、また、どこに無駄が生じており、それをどのように改善するのか、さらには決めたことを無理なく実践するための制度や仕組みとして何が必要か、本来売上アップを目指す場合は、あれやこれやと試行錯誤を繰り返し、そこで先人の知恵やトップセールスマンの営業ノウハウやベンチマーク、さらにはコンピテンシー分析などありとあらゆる手法を用いて、その集大成として営業支援システムが出来上がっていく。しかし、これはあくまでも表向きの理想だったかもしれないというのが私の実感である。実際にこのような理想とは別の目的で導入を進めているケースを数多く目にした。今回は、それらのケースを出来るだけ多く紹介しながら、読者の皆様が置かれている会社の状況と置き換えて考えていただければ幸いである。

●リストラ全盛時代は、退職者の顧客情報の引継ぎを目的に

上記に書いたように通常は「売上アップ」が営業支援システムの導入目的になるが、売上アップにまったくこだわることなく顧客情報の蓄積そのものを目的として営業支援システムを導入したケースである。また、この手の企業の営業支援システムは交通費精算システムと連動するのもひとつの特徴である。とにかく顧客情報を埋めることだけに専念し、埋めてもらうために、必ずシステムを起動してパスワードを入力してもらうために、営業なら誰もが使わざるおえない交通費精算システムと同じシステムにする。言ってみれば交通費の精算をおこなうついでに顧客情報を埋めるような感じで、これはリストラを前提に、退職していく社員が抱えている顧客情報をいかに企業に残してもらうか、そのためだけの用途に絞った使い方である。

●事業所の統廃合による直行直帰モバイル営業体制

同じリストラでも、全国にある事業所や営業所を統廃合するようなケースでは、オフィスの経費削減が第一目的であり、通勤時間が長くなることや物理的にオフィススペースも狭くなるため、会社に出社することなく直行直帰の営業体制に移行するために導入される営業支援システムである。当然ながらモバイル型の営業支援システムになる。ただ、モバイルを徹底させると出社して顔を合わせなくなり、それが疎外感となって生産性に影響するなど問題も生じている。また、これは事業の統廃合だけではなく、少ない営業人数で全国を廻るような業態では必ずこのモバイル型の営業支援システムになる。

●創業者が作った営業秘伝ノートの焼き直し

創業者一代で成長した企業で、その創業者が作った営業秘伝ノートをそのままシステム化したケースである。これは創業者も満足し、これだけやれば営業は合格という基準が明確になるので、ある意味とても幸せなケースである。(営業はここでまでやれば終わりという明確な基準がなく、普通はそれで苦労するわけだが、創業者が考えている営業の範囲ややるべきことが明確な基準になることで仕事をする側はとてもやりやすい環境になる)

●実力主義の客観的な評価システムとして

実力主義の人事制度に変更した企業である。しかしながら、その評価がとても難しく、そのために営業支援システムを導入したケースである。人事考課の時期になると評価期間の6ヶ月の営業活動履歴を見ながら評価していく。これはある意味、営業活動の棚卸しになるのでよい仕組みではあるが、実力主義の運営は、営業支援システムそのものよりも評価者のスキルが一番重要になることは言うまでもない。

●生産在庫コスト削減のために

気づいたら何十億円の過剰在庫を抱えてしまった。それを解消するための営業支援システムのケースである。この企業は半受注生産型で営業の見込状況を見ながら生産設備の稼働率や在庫率をマネジメントしているが、営業は欠品や納期遅れなどでお客様に迷惑を掛けることを極力避けるために、早め大目の見込額を申告する傾向が強く、それが積もりに積もって、数十億円という過剰在庫を抱えてしまったケースである。その額を減らすために営業支援システムを使って営業の見込状況を厳格に判断する仕組みを入れ、かなりの効果をあげている。

●顧客の購買プロセス把握のために

「営業プロセスマネジメント」という考えのもと、たとえば5回の商談でクロージングするためには、どのような営業プロセスや営業ステップにすればよいか、これはよくある営業支援システムの機能のひとつであるが、これはあくまでも自社起点の、つまり自社に都合のよい営業プロセスであり、顧客の購買プロセスとは全く違うものになりがちである。このため、まずは顧客ごとの購買プロセスを把握するために営業支援システムを導入したケースである。ある顧客は社内コンセンサスは誰と、どのようなプロセスを踏み、そこにどれくらい時間を費やすのか、一種の商談チェックリストに近いものを作り上げることを目的に運用している。

●新人営業教育のために

よく報告を簡潔に書くことができずにダラダラ書いては時間だけが過ぎていくという課題を耳にする。実は簡潔に書けない原因は、文章力の問題ではなく、もともと明確な目的を持って活動していないからであり、今日の商談のゴールは何で、そのために何をして、その結果はどうだったか、本当はそれだけ報告すれば、自然と次にやるべきことも見えてくる。それを徹底的に訓練するために営業支援システムを導入したケースである。

●本社主導による施策の仮説検証のために

「こんな情報があれば、こんな営業が仕掛けられるはず」と言うように、目的に応じて蓄積する情報を変えていくような営業支援システムのケースである。その都度蓄積された情報を分析しながら、施策の進捗や成果を把握して、次の施策を検討するために利用する。また、現場レベルでは、休眠顧客に再アプローチするという営業を仕掛ける場合に、すべての休眠顧客を対象にするのは効率が悪いので、この3ヵ月間に取引やコンタクトのない顧客を中心にアプローチするといった使い方をする。通常、営業支援システムはすべての機能を使うというよりは、実際は2から5個ぐらいの機能しか使わない運用になるのが普通だが、この手の営業支援システムは、柔軟性な視点であらゆる情報が分析できる機能が求められる。

●月報作成のために

よくある1ヶ月の反省ノートそのもののケースである。「重点的に取り組んだことは」「今日の営業活動で成功したことは(および理由)」「今月失敗ことは?その改善策、対応策は」「新しく発生した問題は?その対応策は」「先月上司から指示や注意を受けたことは改善できたか」など、とにかく1ヶ月単位で自分の活動内容を検証し、考えさせ、アクションプランを作るために利用する。唯一紙の月報との違いは、これを日々の活動履歴からコピー&ペーストで作ることである。

●新業務システムの名のもとに

見込の問合わせから購入後の顧客のクレーム、保守契約まで、すべてのプロセスを管理することを目的にして導入するケースである。当然ならこれらの業務をすべて営業部門で担うわけではないので他部署との連携も入り、自動資料送付機能や見積書、請求書発行、保守契約書作成など基幹システムとの連携も前提に構築される。あたかもすごいシステムに感じるが、どちらかというと営業支援ではなく、内向きの新業務システムに営業支援機能がおまけ程度についている感じである。

●営業活動の客観定量化の把握のために

サボっているわけではないのに月末になってみると思うような成果があがっていない。これは「ニーズのない顧客に通っていたり」「明確な目的のないままなんとなく営業を行っていたり」「決定権のあるキーパーソンに会えていなかったり」「重点先も一般先も同じようなサービスをしていたり」と、そのようなことが原因であることが多い。本当にそうなのか、一度データをもとに客観的に分析しようということで、営業支援システムを導入したケースである。

●成功、失敗のナレッジ化のために

振り返ってみると、商談がうまく行ったときは、多少時間をかけても情報をきちんと整理していたのではないだろうか。逆に失敗したときは情報を整理仕切れずにいたのではないだろうか。ナレッジというと高度なものに思えてしまうが、情報を整理するための報告フォーマットぐらいの位置づけで、あくまでも情報を整理するために導入したケースである。この手の導入はなにより記入サンプル例の良し悪しでその後の運用に大きな差が出てくる。報告をするのに日々の30分時間を使ったとしても、その時間の積み重ねがやがて企業の財産になり強い会社に変えることができる。という狙いのもと中長期の視野で運用している。

●おわりに

いろいろなケースを示しましたが、果たして導入コスト以上の効果は得られたのでしょうか?コスト削減を目的とした情報化投資は導入しさえすれば効果が得られますが、営業支援システムは導入さえすればその効果が得られるようなものではなく、どっちに転ぶかわからないものに投資判断しなければならないものである。言うまでもなくそれを判断できるのは経営層に他ならず、そして投資したからには回収するのが経営そのものである。他の情報化投資と違い営業支援システムは経営層が判断すべきで項目であり、経営層が積極的に関わらない営業支援システムの導入は大きな成果をあげることはない。これが現在の私の結論である。



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