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雑誌連載  [ 2.リーダー企業が取った営業戦略と情報化 ]

●はじめに

私が営業部門の情報化の仕事に関わり始めた7年前、当時営業部門の情報化に積極的に取り組んでいた企業は、市場でNO1と言われているリーダー企業が多かった。情報化に先進的な考え方を持っており、また、それを担うための専任部署または専任者がいた企業である。つまり、情報化予算が豊富で、人材も豊富という、経営における情報化推進のあるべき姿を引っ張っている企業である。今回は、このリーダー企業が取った営業戦略と情報化について、そこで行われていた実際の姿をご紹介する。

●リーダー企業の営業部門とは

ある食品メーカの担当者の一言は今でも忘れられない。新規顧客開拓を強化するための機能を説明していた時である。「弊社の製品は置いていないお店はない。100%置かれている。そのため新規顧客開拓機能は必要ない」と、各社がいかに新規顧客を開拓するかを課題にしていたときに、そのための機能は必要としていなかったのである。また、別の食品メーカは、ある全国チェーンにだけ商品が入っていない。しかし、そこはそのままで営業しなくてもいいという。昔なんらかのトラブルがあり、取引を停止しているとのことである。つまり、食品メーカの方が強いのだ。
では、そんな企業の営業部門は何を考えているのか?言い換えるとリーダー企業が取るべき営業戦略は何かということになる。それはずばり、新しいマネジメント手法、新営業手法、次期の商品開発のための顧客ニーズの把握、および業界のチェックである。そのために営業部門の情報化が行われる。

●2−3年掛けて営業戦略を策定しているのが特徴

この手の企業には概ね営業戦略を立案する専門の部署がある。その部署が長期計画、中期計画、短期計画を立案する。その中期計画の中に営業部門の情報化推進が取り込まれているケースが実に多い。計画の中にはすでに「あるべき営業の姿」が描かれ、それを実現するために、どうすればよいか、その実現に向けてフロンティア精神(Frontier)とフィージビリティー(Feasibility)が繰り返される。少しおかしな表現ではあるがこういうことである。情報化により紙では不可能であった新しいマネジメントが可能になる。それを積極的に試みるフロンティア精神を持っている。また、これらを机上の理論で進めてはいけないことを知っている。現場が実際に使いこなせるか、無理なく運用できるかなどフィージビリティー(実現可能性)チェックが繰り返される。
このため、実際の営業部門の情報化に大きく2つの特徴がでる。1つは、情報システム部主導ではない、営業部門主導で情報化が進められる。SFAベンダーに勤務していた経験では80%がエンドユーザある営業企画部門からの直接の問合わせだった。もう1つは、自社に合うパッケージアプリケーションを探すという発想があまりない。パッケージを利用したとしても大幅なカスタマイズもしくは受託開発に近い形で開発が進められる。これは、豊富な情報化予算、豊富な人材という要因もあるが、もうひとつリーダー企業たるプライドもあると考えられる。ベンチマークをするにしてもベンチマークのお手本になる企業である。自らが最適な方法論を模索し日々実践しているからこそリーダー企業に居続けられるわけで、他社に学ぶものがないといえば言い過ぎではあるが、すべて自分たちで考える傾向が強い。
これを一般論に落とせば、情報化推進には2つの進め方がある。1つは、まず目的が最初にあって、それに必要な情報化は何かを考える進め方と、もう1つは、まず情報化があって、それをいかに利用できるかを考える進め方である。敢えて言ってしまうと、最初に目的あきりで情報化を推進するのはトップダウンでしか実現できない。ボトムアップで推進するのは難しい。よく営業部門の情報化はトップダウンで行うべきであると言われているのはこのためである。

●月間訪問件数より営業の質を向上させるために全力

「誰もが社名を聞けばあの有名な会社ね」とアポを取るために苦労しないと言えばいいのだろうか。見込客が潤沢にある。営業の成果は、「営業の質」と「営業の量」の掛け算で決まるといわれている。これはどんなに優れた営業を行える人でも営業しなければ売上げはゼロである。逆に、提案する中身がダメならばいくら足で稼ぐ営業をしても売上げはあらない。ということをあらわしている。普通の企業は、この質と量の両方を見据えたシステム構成にするが、リーダー企業は営業の量にはこだわらない。とにかく営業の質をあげるたにシステムを活用する。俗に言う月間訪問件数の集計など、その手の機能はあまりニーズがない。

●過去、現在、未来を共有するチーム営業機能

人材が多いと必然的にたくさんの部署ができる。また高度な顧客ニーズに対応するためにそれぞれの分野のスペシャリストを抱えているケースも多い。つまり役割が細分化され、部署も異なり、物理的にも離れている。このため実際の営業には情報の共有が重要になってくる。たとえば、それぞれの分野のスペシャリストは最初から案件やプロジェクトに関わっているわけではなく、必要に応じて、いろいろな人材が対応する。急遽プロジェクトに参加することになったとしても今までの経緯を把握しなければ仕事にならない。そのための打ち合わせに時間を割くことなく過去の情報や状況を共有する。ある会社はこれを「過去の時間を共有するためのシステム」だと言っていた。
また、医療業界のシステムでは医師の情報を15年分共有できる仕組みにした。そもそもなぜ取引がスタートしたかの取引経緯から、その医師にとってのタブー事項や禁句集など、企業の担当者は数年で変わるが医師は一生変わらず、引継ぎが重要だからである。さらに金融のリテールのシステムでは、顧客情報の項目だけで200項目あった企業もあった。ほとんど選択式は使わずテキスト形式で文章を書かせる。これは全部埋まることはない。それでいいという。何年か掛けて埋めていくという発想であり、数年後の商売を踏まえた将来のための投資である。

●PLAN-DO-SEE-CHECKと情報化の落とし穴を知っている

「PLAN-DO-SEE-CHECK」は、よく言われるマネジメントの手法であるが、そこには一つの落と穴がある。その落とし穴とは「CHECK→PLAN」とサイクルが一巡するところである。これは前年度の予算実績の結果を翌年のベースにする単純な話ではない。検証した結果を受け思ったような成果が得られていない場合に、どう改善すればいいのか。それを実現するためにはなにをすべきなのか。その答えを出して、次の計画に組み込む作業である。いうまでもなく、その答えをコンピュータが出してくれるわけではない。スキルを持った担当者がそれぞれの状況、自分の哲学や視点に応じて行うものであり、機械化や標準化できるものではない。つまり、人間の思考が介在する。そこには、思考プロセスも違うし、そのための思考時間(ターム)も違ってくる。ここをきちんと意識してシステムを設計しているかいないかで営業部門の情報化は大きな違いが出る。
これをシステム的に言うと、あらゆる思考を持った人が利用できるように、柔軟性のあるシステムでなければならないということになる。つまり、いろいろな切り口で見えるシステムでなければならない。たとえば10個の機能があったとする。Aマネージャーはそのうち3つを好んで使い、Bマネージャーは、Aマネージャーとは違う2つの機能を好んで使う。その柔軟性が求められるということである。これらを踏まえてシステム構築時に設計しなければならないと考えるとかなり大変な作業になることがわかるだろう。しかし、そこまで踏まえて考えてシステムを構築しているのがリーダー企業である。

●本部が欲しがる機能をカスタマイズする

通常の営業情報化アプリケーションは営業日報が中心となった現場のためのシステムが中心で、本部や企画セクションが欲しい機能はあまり装備されていない。1つの例をあげると、営業が2000名いた企業では、新商品の販売の状況を確認するために、各拠点にアンケートを送付し、アンケートを回収し、アンケートを集計して、レポートを作成する。システム前はこの作業に1ヶ月掛かっていた。それが、各営業が日々入力するフォームにアンケートが記入できる機能を用意することで、新商品販売2日後には、市場での反応が見えるようになった。つまり、1ヶ月近く時間を短縮でき、早期に次の手を打つことが出来るようになった。
一方で、アンケートを送付された各拠点も、個々の営業から情報をまとめ拠点として情報を送付する作業から開放され、紙ベースの仕組みだと、どうしても最大公約数的な情報にならざるをえなかったものがよりきめ細かい情報が送れるようになった。さらに、個々の営業がダイレクトに本部に情報を送れるようになったことで、自らをアピールできるなど社員のモチベーションにもつながっている。

●愛社精神が支える日々の運用

誰もが知っている有名企業。当然ながら入社するのも難しく社員はデキル社員ばかりである。また、それが愛社精神、プライドにもつながっていると思われる。ある企業では、キーボードを打つのも初めてという定年近い社員が毎朝1時間早く出社して、「営業支援システム」に一生懸命書き込みをおこなっていたという。自ら経験した40年のノウハウを企業に残したかった。もっと言ってしまうと自分の存在意義を残したかったのが理由である。実際に書かれた内容も形式的なものは一切なく営業現場のリアリティーそのものだった。この企業ではその噂が社内に広まり、「営業支援システム」はおおいに盛り上がったという。
一方、リスクがないわけではない。デキル社員はシステムなんかなくてすべてこなせてしまうため、あまりシステムを積極的に活用しない傾向もある。活用度は個人に任せ、これをよしとする会社もある、また、そのような社員に逆に積極的に参加してもらうために日々の入力ではなく次の「営業支援システム」の仕様策定に参加してもらうなど工夫している企業もある。

●スケールメリットでカバーできるROI(投資回収率)

とにかく恵まれている。この一言に尽きる。当時1人1台のパソコン環境が整っていた。また、テスト拠点を選んでそこでテスト導入を繰り返しながら軌道修正して最終的にシステムを完成させていく。また、情報化投資額についても、たとえば売上が1000億円ある企業であれば、仮に情報化投資の効果が1%出たとしても、その額は10億円である。1-2億円の情報化投資はなんなく回収できる。営業部門の情報化投資はスケールメリットが発揮されやすい。10%の効果を狙わなくても充分に採算が取れるのである。

●リーダー企業の真似はしてはいけない

リーダー企業と同じことをやろうというのはリソース的に無理だということが見えてきたのではないだろうか?
よくリーダー企業がシステムを導入したという記事を目にして、または噂を聞いて、自社も導入すべきだという考え方でシステムを導入するケースが実に多いが、そこは考えどころである。
システム導入のタイミングはまったく問題はない。少しでも早く手をつけるべきである。ただ、リーダー企業の真似をしても同じ効果を得られるわけではないことを知って欲しい。よく営業部門の情報化が失敗したというのはまさにこの真似をして導入するケースであると言ってもいい。リーダー企業でも失敗したといわれている企業は、米国の真似をしたからだと思われる。ERPなど業務の効率化、コスト削減のためシステムは真似することで一定の効果が得られる。しかし営業部門の情報化は真似してはいけない。標準化しするだけでは効果があがるほど営業は単純でないからである。



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