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雑誌連載  [ 3.リテールビジネスの営業戦略と情報化 ]

●はじめに

お客様は神様ではない。CRMの本によく出てくる言葉である。その意味するところは、上客20%が企業の収益を支えており、残り80%は「手間をかけても儲けにならないから相手にしない」というものである。この考え方は正しいかもしれないが、これからの時代はそれだけでは企業成長は期待できない。今回は、この言葉の意味するところをリテールビジネスの営業戦略と絡め、最近よく耳にする顧客に関する情報化キーワードをあわせてご紹介する。

●従来の高度情報化とは

本稿ではインターネット出現前を「従来」として位置づけ、インターネットが普及した今を「現在、未来系」として話しを進めることにする。「従来の高度情報化」の代表企業はセブンイレブンであろう。セブンイレブンの24時間、商品を絶やさず販売するというサービスは、高いIT技術で支えられている。たとえば、店舗のレジで入力されたデータが、そのまま在庫に反映され、その在庫量が発注処理として本部や配送センターに廻り、それにもとづいて1日数回店舗へ配送が行われる。つまり、店舗のレジで入力したデータが起点となって、すべての業務がITでつなげられている。また、本部では常に売れ筋商品を把握し、機会損失を防止するとともに、単品単位で粗利率の管理が行われている。24時間ノンストップ全国で動くというコンピュータの堅牢性もさることながら、この一連の仕組みがビジネスの強みになっており、セブンイレブンのビジネスはITなしには成立しない。まさにITを活用したビジネスの醍醐味である。

●今の時代の高度情報化

セブンイレブンの例で言えば売れ筋を手厚くマネジメントすることで、全体の収益率の向上を目指すビジネスモデルであるが、今の時代の高度情報化の代表企業であるアマゾン(インターネットの書籍販売)は、その逆のビジネスモデルで成功している。つまりこういうことである。従来の書籍販売は、書店の店舗面積が限られているため、有名な作家や新刊を一定期間置いては返品を繰り返すということが行われていた。このため、ある程度知名度がないと書店に置いてもらうことすらできず、販売機会は極度に制限される一方で、書店の売上げは一部有名作家の書籍で大半を稼ぎ出す。まさに20%のみを対象としたビジネスである。しかし、アマゾンは上位10万タイトルから売上げの50%を生み出している。つまり、本屋にない本を扱うビジネスであり、売れ筋以外の書籍から利益をあげているのである。今まで見過ごされてきた大多数の書籍から収益を上げるビジネスモデルで、これは何を隠そうインターネットで成功している共通のビジネスモデルであり、これらは検索技術、リスティング広告(検索キーワードにあわせて広告を表示する機能)やレコメンデーションエンジン(顧客の購買履歴等からお勧めを表示する機能)という高いIT技術で支えられている。
小さいものをかき集めてビジネスすると言えばいいのだろうか、オークションサイトもまさにそのようなビジネスモデルであり、ここで冒頭の「お客様は神様じゃない」という話に戻るが、これからは上位20%の上客にリソースを集中するビジネスだけでなく、残りの80%からいかに広く薄く収益をあげるか、それは商品であっても、顧客であってもいい、そのための戦略が重要になってくることを示していると言えよう。つまり、一連の業務をつなげるという内向きの社内IT化だけではなく、顧客を起点として顧客とつながっている外向きのIT化こそが、これからの企業の成長の鍵を握る高度情報化の進むべき道になるはずである。

●銀行のリテール戦略

ここで銀行のリテールビジネスを例にとって、どのような戦略で20対80のビジネスを構築しているのかご紹介しよう。言うまでもなく20%の裕福層は専任の営業担当が付き手厚くサービスを行う。一方で残り80%の顧客に対してはセルフサービスに誘導するビジネスモデルである。つまりATM機に誘導する。コンビニに設置されているATM機がそれである。ATMの設置数を増やすことで利便性を高め、利便性が高くなることで利用数増加による手数料収入を増やす戦略である。リテールの話とは逸れるが、法人についても同様で、大企業は手厚いサービス体制を構築する一方で、それ以外の企業については、融資審査の自動化を進め、社歴や売上高などいくつか項目を入力すると、その企業にいくらまでなら融資をしていいのかコンピュータが答えを出してくれる。そこで行われているIT化は、上客20%は専任の営業が担当しSFAで情報化を行い、残りの80%はセルフサービスを可能にするシステム化であり、銀行の場合はATM機のサービス開発や融資審査の自動化になる。

●20%の上客を対象にした営業の情報化

この銀行の場合は、同じSFAでも一般の使い方とはやや違う。日々の商談情報より顧客情報の充実に力を入れている。前回も少し触れたが顧客情報の項目だけで200項目程度ある。資産構成からはじまり、家族構成はもちろんのこと、家族が経営している会社の情報など、ありとあらゆる情報が名寄せされて管理される。また、営業が足で稼いだ情報だけでなく、外部情報(信用情報)などからも定期的に関連情報が更新され、クリックするだけで顧客に関するすべてを見ることができる。
なぜ、顧客情報をこれほどまでに充実させているかと言えば、顧客のライフサイクルすべてに渡って生涯価値最大化を目指しているからであり、目先の売上げに走ってかえって嫌われてしまっては元も子も無くなってしまうからである。そしてビジネスのタイミングが来るまでじっと待ち、いざそのタイミングが来たときに、今まで蓄積した情報を元に万全の準備で対応する。それは本人だけでなく、子供、孫に至るまで考えてのことである。これらの情報は言うまでもなく紙では管理できない。現にこの会社もシステム導入前まではお客様ごとに1ファイルでファイリングしていたがそれでも限界があった。また、IT化にすることで、蓄積性だけでなく、検索性や情報の共有性、つまり営業担当が変わっても、これらすべての情報が完全に引き継がれていくのである。

●80%を対象にした営業の情報化

80%の顧客に対するビジネスは、「高効率経営の実践」をどう実現するか、80%からどのようにして、どれだけ収益を上げるか。その戦略があるかないかの一言に尽きる。また、その戦略を実現する場合はIT抜きには考えらない。ITを上手に使わなければコスト倒れになってしまうからである。そしてその方向性は「セルフサービス」に向かっている。この「80%を対象にしたセルフサービスシステムがCRMの本質である」というのが私の考えであり、銀行の場合はATM機や自動融資化ということであったが、他の業種ではあまり明確な戦略はなく、CRMはまさにこれからが本番になると考えている。

●充実させた顧客情報をどう商売に結びつけるか、答えは3つしかない

20%の上客にしろ、80%のビジネスにしろ、基本的には顧客情報の充実に向かうわけだが、この顧客情報をどう商売につなげるか、現金化するかということが戦略そのものになる。長期、中期戦略は、顧客情報からニーズを把握して、新商品の企画や新販売手法に活かすというのが一般的であり、逆にこれしかない。短期(1年以内)の場合も、実は「クロスセル」「アップセル」「リマインド」という3つの手法しかなく、扱っている商材や業種によりさらに限定される。「クロスセル」とは、洋服を購入したお客様に靴を勧める手法である。つまり、関連商品を販売する。この手法が適用できる業種は、ファッション、書籍、ゲーム、金融などである。「アップセル」とは、第1次取得層が購入する3000万円以下の家を持っている人に5000万円程度の家を勧める手法である。つまり、グレートアップ商品を販売する。この手法が適用できる業種は、ソフト、パソコン、自動車、家である。「リマインド」とは、歯の治療終了後から3ヶ月経過したときに治療具合を聞き来店を促す手法である。つまり、日常生活をしていると忘れてしまっていることをもう一度思い出させ来店を促進する。この手法が適用できる業種は、歯科、メガネ、家電、自動車、家などである。いずれも単純な例で示したがITを駆使して、ヒット率、受注率、さらにはセルフ率をあげることが顧客情報を充実させる目標になり、どの手法に力を入れるかで顧客情報項目は全く異なるものになる。しかし、なかなかそこまで踏み込んで考えている企業は少ないように思う。

●専任の営業が付くより、割引が嬉しいお客様

今回は最後に問題を提起して終わりにしたい。それは、上客20%に入っている顧客でも専任の営業を必要としない時代になりつつあるということである。つまり、営業からアドバイスを貰わなくてもすべて自分で判断できる顧客が確実に増えていることに対する対応である。
これを百貨店の例で説明すると、昔の百貨店は、モノを売るというよりカルチャー、生活様式を売っていた。外国の新しいものを生活に取り入れていくための提案の場所だった。その場所には日本経済の発展とともに豊かさを求めて人が集まった。しかし、日本が豊かになりすぎ、その場所としての使命を終え、百貨店の収益は悪化しはじめる。提案の必要性が薄れていくことで、次に値引きという優遇策を提供しはじめる。各社自前のカードを作成し、購買ポイントに応じた値引きを行う顧客の囲い込みである。この手の手法で有名なのは、航空各社が提供しているマイレッジサービスであり、利用回数(利用距離)により一定のプレゼンを貰うことができる。大手家電のポイントサービスも同様であり、現在はどの業種でもこれらのサービスは行われているが、このポイントサービスは戦略としてはかなりリスクが高い。あくまでも価格競争であり、消耗戦になるからである。体力のないところは付いていけない。このため一部これらのサービスを中止した企業も出てきている。また、その会社に悪い噂が流れると(インターネットによりいとも簡単に噂が流れる)、一気にポイント換金が起こるなどと資金的にもショートしてしまうケースも出てきている。
そして最近、百貨店の復活が聞かれるようになってきた。その活路は何かと言えば、お金持ち層を対象にした外商部であり、まさに20%を対象にしたビジネスである。いったい何をしたらよいのだろうか?戦略には「これが正解」というものはない。SFAさえ導入すれば売上げが上がるとか、CRMでインターネット時代を生き抜くとか、各ベンダーのセールストーク通りいくのであれば誰も苦労しないのである。いずれにしろ、明確なビジネスモデルとそれにもとづく営業ビジョンが必要であり、ITありきではなくその戦略を実現するために必要なITとは何かを考える思考プロセスこそがこれからのIT化でもっとも重要であり、それを担う人材の有無でその企業の情報化が決まるといっても過言ではない。



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